AI検索で大手ばかりブランド推薦されるとき、どこで戦うべきか ―「弱者の戦略」で考えるAIブランド推薦対策

生成AIに「おすすめの会計ソフトを教えて」「実績のあるCRM会社は?」と聞くと、何度聞いても似たような大手企業の名前が並ぶ。LLMO(AI検索対策)に取り組み始めた企業から、最近こうした声を聞く機会が増えました。
当社メディアリーチの調査でも、若年層の生成AI利用者の約3割が、生成AIで商品やサービス、企業を検索・比較していることが分かっています。AIの回答に自社が挙がるかどうかは、すでに見込み客との接点そのものになりつつあります。
大手ばかりが挙がるのは、ある意味では当然の結果です。ブランドの知名度、導入実績、Web上の情報量、第三者からの言及。これらが厚く積み重なった大手企業は、条件の少ない一般的な質問では候補に挙がりやすいと考えるのが自然でしょう。
ただ、ここで「どうすれば大手に勝てるのか」だけを考えはじめると、戦略を誤りやすくなります。AIでのブランド推薦において先に問うべきなのは、そもそもその質問で戦うべきなのかです。そしてこれは、AI検索に限った新しい問いではありません。経営資源で劣る企業がどこで戦うべきかという、経営戦略やマーケティングで長く論じられてきた問いが、AIの回答という新しい舞台で改めて問われているのです。
質問が変われば、競争の顔ぶれも変わる
「おすすめの会計ソフト」のように、カテゴリ全体を対象にした質問を考えてみてください。この種の質問では、広く使われている有名なサービスが回答に並びやすくなります。聞き手の状況が何も分からない以上、AIが無難な選択肢を挙げるのは不思議ではありません。
ところが、「中小企業でも導入しやすい会計ソフト」や「初めて不動産投資をする会社員に向いた会社」のように条件を加えると、状況は変わります。評価される点そのものが、知名度から「導入のしやすさ」や「初心者への手厚さ」へ移っていくからです。キーワードを並べて検索するのではなく、状況を添えてAIに尋ねるという行動の違いが、ここに表れています。質問に条件が加わると、AIが回答の裏で行う関連検索(クエリファンアウト)の中身も変わりうるため、参照される情報源が入れ替わることもあります。
OpenAIはChatGPTの商品検索に関するヘルプ記事で、ChatGPTは質問と文脈に加えて価格、レビュー、使いやすさなどを考慮し、たとえば予算が指定されれば価格をより重視すると説明しています。また、ショッピングリサーチ機能の解説では、利用者のニーズを確かめながら候補を絞り込んでいく流れが紹介されています。これらは商品検索についての公式の説明で、会社やサービスの推薦すべてにそのまま当てはまるとは限りません。それでも、AIの推薦が「いつも同じ順位を返すもの」ではなく、質問の条件によって候補も評価の観点も変わりうる、という点を理解する手がかりにはなります。
この違いは、自社の領域で実際に確かめてみるとよく分かります。当社が提供するAIブランド計測ツール「DolphinX AIO」のオンデマンド計測では、1つの質問を同じAIに10回投げて、どの企業が何回推薦されたかを数えます。未登録の競合も自動で検出されるので、「カテゴリ全体の質問では大手3社がほぼ毎回登場するが、条件を1つ足すと顔ぶれが入れ替わる」といった変化を、1回の偶然ではなく傾向として捉えられます。
「大手に勝つ」は、いつも正しい目標とは限らない
AI検索対策を始めると、「このプロンプトで競合A社より上に出たい」「大手3社と並んで推薦されたい」といった目標を置きたくなります。それが重要な場面もあります。しかし、定番の質問で大手が強いからといって、必ずそこで勝負しなければならないわけではありません。
本当に確かめるべきは、その質問で推薦されることが、自社の売上や問い合わせにつながるのかという一点です。推薦がどれだけ事業に効くのかを見積もる方法は、AIO・LLMO対策の投資対効果(ROI)の考え方で詳しく解説しています。
「おすすめの○○会社」で大手が圧倒的に強かったとしても、「○○業界に強い○○会社」や「中小企業向けの○○サービス」を尋ねる人のほうが、自社の実際のお客様に近いかもしれません。そうであれば、一般的な質問で大手と消耗戦をするより、自社との相性がよい質問に力を注ぐほうが理にかなっています。
AI検索対策は、挑戦者のための「弱者の戦略」と同じ構造をしている
日本の中小企業経営でよく知られる考え方に、ランチェスター戦略があります。もとは戦闘の損害を数式で表した法則で、日本では田岡信夫氏が販売戦略として体系化しました。その中心にあるのが、経営資源で劣る企業、つまり「弱者」が取るべき戦い方です。

弱者の戦略の要点は、強者と同じ土俵で総力戦をしないことにあります。市場全体ではなく特定の地域や顧客層に戦場を限定する「局地戦」、力を一つに集める「一点集中」、顧客に近いところで勝負する「接近戦」。これらはいずれも、「広い戦場では数で勝る強者が勝つが、戦場を狭めれば挑戦者にも勝ち目が生まれる」という考え方にもとづいています。
AIのブランド推薦に置き換えると、この構造はそのまま当てはまります。条件の少ないカテゴリ全体の質問は、知名度と情報量で勝る大手に有利な「広い戦場」です。一方、対象、利用場面、課題といった条件の付いた質問は、戦場が限定された「局地戦」にあたります。
経営戦略論でも同じ結論が導かれます。マイケル・ポーターは競争戦略の基本形の一つとして、特定の顧客層や領域に経営資源を絞り込む「集中戦略」を挙げました。さらに論文「What Is Strategy?」では、戦略の本質は何をやらないかを選ぶことにあると述べています。AI検索対策に当てはめれば、推薦を狙う質問を選ぶことは、同時に狙わない質問を決めることでもあります。
AI検索対策における大手との戦い方は、正面・条件・撤退の3つ
こうした戦略の考え方を踏まえると、企業がAIでのブランド推薦に向き合うときの道は、大きく3つに整理できます。
1. 正面から戦う
1つ目は、正面から戦う道です。これは市場の上位企業、いわば強者の戦い方にあたります。定番の質問そのものの事業価値が高く、自社にもブランド認知、豊富な導入実績、第三者からの評価、競合に対する明確な強みがそろっているなら、主要な質問での推薦を狙う意味は十分にあります。
ただし、自社サイトの記事を増やせば追いつけるほど単純ではありません。AIの回答がどの比較記事、レビューサイト、業界メディアを引用しているのかを調べ、どこで差がついているのかを突き止めるところから始める必要があります。AI検索の時代にPRや第三者からの評価がSEOの前提を変えつつあるのも、こうした背景によるものです。
2. 条件をずらして戦う
2つ目は、条件をずらして戦う道です。多くの挑戦者にとって、最初に検討すべき選択肢でしょう。カテゴリ全体ではなく、「誰に向けたサービスか」「どんな場面で使うのか」「何を重視する人か」「どんな課題を抱えているか」を具体的にしていきます。
CRMで言えば、「おすすめのCRM」ではなく、「営業担当が5人ほどの中小企業に向いたCRM」「初めてCRMを入れる会社向け」「国産でサポートが手厚いCRM」といった質問です。知名度や導入実績では大手に分があっても、業界への適合、専門性、価格、柔軟さ、サポートといった別の観点では、他の企業が候補に入る余地が生まれます。
これはマーケティングでいうポジショニングの考え方にほかなりません。アル・ライズとジャック・トラウトは、あるカテゴリで一番になれないなら、自分が一番になれる新しいカテゴリをつくれと説きました。「中小企業向けのCRM」や「国産でサポートの手厚いCRM」は、まさに自社が一番手になれる小さなカテゴリです。どの状況で自社が思い出されるべきかを考えるうえでは、「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」の考え方も役立ちます。業種ごとの具体的な進め方は、製造業のAIO・LLMO対策ガイドやクリニックのAIO・LLMO対策ガイドも参考にしてください。
とはいえ、条件の切り口を自社の思いつきだけで並べると、見落としが出ます。DolphinX AIOの「プロンプト作成」は、カテゴリ名と自社・競合のサイトをもとに、買い手が比べるときの観点(価格、対象規模、サポート、導入期間など)を洗い出し、それを組み合わせた質問をまとめて作ります。
どの観点が自社サイトに書かれていて、どれが競合サイトにしか書かれていないのかも示されるため、「どの局地戦なら勝ち目があるか」を考える材料になります。
3. 戦わない
3つ目は、戦わないという道です。大手の推薦が安定していて自社との差が大きい、そもそも自社のお客様とのつながりが薄い、推薦されても問い合わせにつながりにくい。こうした質問は、あえて優先度を下げる判断もありえます。ポーターの言う「何をやらないかを選ぶ」ことを、AI検索対策の中で実践するわけです。すべての質問で推薦率を上げようとして力が分散するのは、AIO・LLMO対策で成果が出ない典型的な原因の一つでもあります。
AI検索対策では、「勝てる質問」を探すだけでも足りない
ここで一つ、注意しておきたい落とし穴があります。局地戦が有効だからといって、大手が出てこない質問を見つければよい、という話ではないのです。
条件を極端に細かくすれば、自社が推薦される質問はいくらでも作れます。「東京都内で○○に対応し、△△機能もあって、□□業界に特化したサービス」まで絞れば、競合はほとんどいなくなるでしょう。けれども、実際にそう尋ねる人がほとんどいなければ、事業上の価値はないに等しいものです。弱者の戦略でいう局地戦も、誰もいない場所を選ぶことではなく、勝ち目があり、しかも取る価値のある市場を選ぶことを意味します。
そこで、どの質問に力を注ぐかは、事業価値、自社との適合度、競争できる可能性の3つを掛け合わせて考えます。見込み客が実際に尋ねそうで、自社の強みやお客様の姿と重なり、しかも大手との差を埋められる観点がある。そうした質問から手を付けるのが基本です。
逆に、どれだけ推薦を取りやすくても、事業価値が低い質問の優先度を上げる理由はありません。質問の洗い出しから絞り込みまでの具体的な手順は、LLMO・AIOのプロンプト設計の進め方にまとめています。
この判断は、一度きりの感覚では下しにくいものです。DolphinX AIOのプロンプト日次計測では、登録した質問をGoogle AIモード、ChatGPT、Gemini、Copilotで毎日計測します。質問に「中小企業向け」「業界特化」といったタグを付けておけば、条件ごとの露出率をまとめて比べられます。
登録した競合ブランドと質問ごとの勝ち負けも並ぶので、「カテゴリ全体の質問は大差で負けているが、中小企業向けの質問では互角」といった戦況を、数字で確かめたうえで戦場を選べます。
大手が強い理由を「ブランド推薦理由」まで分けて見る
大手ばかりが推薦されているとき、「大手だから強い」で分析を終えてしまうのはもったいないことです。AIの回答の中で、その企業がどう説明されているのかに目を向けてみてください。導入実績の多さなのか、知名度なのか、機能の幅広さなのか、料金の分かりやすさなのか、サポート体制なのか、特定分野での強さなのか。繰り返し語られる理由には、必ず傾向があります。
これは、ブランディングの言葉でいえば、AIがそのブランドにどんな連想を結びつけているかを読み解く作業です。ブランド研究で知られるバイロン・シャープらは、購買の場面で思い出してもらえること(メンタル・アベイラビリティ)が、ブランドの成長を左右すると論じています。AIの回答で「導入実績なら○○社」「中小企業なら△△社」と説明されるのは、AIの中にその連想ができあがっている状態だと見ることもできます。
整理するときは、質問、評価の観点、ブランド、推薦理由を一続きのものとして見ていきます。そうすると、「導入実績では勝てないが、特定業界への専門性なら戦える」「機能の数では負けるが、使いやすさでは差をつけられる」といった、具体的な判断ができるようになります。自社のブランドを、どの観点と結びつけて覚えてもらうべきかが見えてくるわけです。
大切なのは、AIの推薦の仕組みを言い当てることではありません。観察できる回答から、どの条件と観点で、どのブランドがどう説明されているのかを丁寧に記録し続けることです。DolphinX AIOでは、計測した回答本文と、自社や競合が言及された箇所、回答が引用した情報源をあわせて確認できます。大手の推薦理由がどのサイトの記述に支えられているのかまでたどれれば、「どこに情報を出せば差が縮まるのか」という施策の当たりも付けやすくなります。
ブランド露出を増やす施策から、戦う場所を選ぶ戦略へ
これまでのSEOでは、検索数の多いキーワードで上位を取ることが大きな目標でした。AI検索でも、カテゴリを代表する質問で推薦されることには確かな価値があります。「SEOはもう意味がない」わけではなく、変わったのは戦い方のほうです。
AIとの会話では、利用者が条件を足しながら候補を絞り込む使い方が自然です。GoogleもAI Modeでのショッピング体験の発表の中で、検討したい点を整理しながら商品を絞り込んでいける体験を紹介しています。条件付きの質問が増えるほど、局地戦の数も増えていきます。挑戦者にとって、AI検索は不利な舞台というより、戦場を選びやすい舞台だとも言えるでしょう。
大手が圧倒的に強い質問なら、戦わない。条件を変えれば自社の強みが評価されるなら、そこで戦う。事業上重要な質問で競争できるなら、正面から取りに行く。これは新しいノウハウではなく、経営資源に限りのある企業が昔から実践してきた戦略の原則を、AIの回答という新しい舞台に持ち込むことにほかなりません。AI検索対策で問われているのは、推薦率を一律に上げることではなく、自社が選ばれるべき文脈を見極め、そこに経営資源を集中させることなのです。
自社がいま、どの質問で、どのAIに、どれくらい推薦されているのか。まずはその現在地を知るところから始めてみてはいかがでしょうか。自社で計測を試すならDolphinX AIOの14日間無料トライアルを、戦う質問の選び方から専門家と進めたい場合は、メディアリーチのAI検索の現状を把握するLLMO診断やLLMO対策支援サービスをご覧ください。



