SEOの常識が今、静かに塗り替えられようとしています。2025年春、世界最大級の検索マーケティングイベント「brightonSEO」がイギリス・ブライトンで開催され、私たちメディアリーチも現地でその変化の最前線を体感してきました。世界中から集まった実務家たちと共に、生成AIと検索の融合、EEATの進化、ブランド戦略の再定義など、SEOの未来を形作る重要なテーマに触れる機会となりました。本レポートでは、会場でのリアルな熱気や議論の中から見えてきた8つの主要トレンド、そして当社が特に注目した講演の気づきを通じて、これからのSEO戦略に求められる視座をお届けします。注目講演レポート信頼はコードでは生まれない ── E-E-A-Tにおける構造化データの本当の役割SEOは死なない。変わるのは戦い方──「信頼されるブランド」を育てるマルチチャネル戦略DRやDAに依存しない時代へ──「リンクの本当の価値」を見抜く新評価指標とは?「検索する」から「聞く」時代へ──AIが変えるブランドとコンテンツの発見構造検索結果(SERPs)からAI Overviewsへ──生成AI時代におけるSEO戦略の再構築1,000万件のAI検索結果が示す、SEOの新ルール RAG革命:Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)は、どのようにAIエンジンと従来の検索をつなぐのか順位から評価へ──PRがSEOを根本から変える時代brightonSEOについてbrightonSEO 2025は、世界で最も影響力のあるSEO(検索エンジン最適化)カンファレンスの一つとして、イギリス・ブライトンで開催されました。このイベントは年2回(春と秋)にブライトンで開催されるほか、サンディエゴでも開催されており、グローバルなSEOコミュニティの重要な集まりとなっています。このイベントは、検索マーケティング、コンテンツ戦略、技術SEO、ユーザー体験など、デジタルマーケティングの幅広い分野をカバーします。世界中からSEOの専門家、マーケター、ウェブ開発者が集まり、最新のトレンド、戦略、ツールについて学び、共有する場となっています。特に、AIと検索、ユーザーインテント分析、E-E-A-Tの最適化などが注目され、業界の最新動向や事業機会を把握する場としても重要視されています。会場の雰囲気会場は活気に満ち、多くの参加者で賑わっていました。特に、AI関連のセッションは人気があり、最新技術の活用方法について熱心に学ぶ姿が目立ちました。カンファレンスでは、理論だけでなく実践的な内容が多く取り上げられ、参加者は具体的な戦略や手法を自社のマーケティング活動に取り入れるための情報収集を積極的に行っていました。会場内では、さまざまなツールベンダーが出展しており、デモンストレーションを通じて製品の機能や効果を直接確認する姿が見られました。また、セッション間の休憩時間には活発なネットワーキングが行われ、参加者同士の情報交換やビジネス機会の創出の場としても機能していました。デジタルマーケティング業界の変化のスピードが感じられ、日本企業にとっても最新のSEO動向を把握し、国際的な競争力を強化する機会として非常に有意義な場であったと考えられます。参加者の動向個人的な所感として、AIと検索の統合に関するセッションが特に関心を集めているように感じました。ChatGPTやGeminiなどの生成AIツールがSEO戦略にどのような影響を与えるかについて、多くの参加者が情報を求めている様子でした。また、Google検索の最新アルゴリズム変更に対応するための技術セッションも人気があるように見受けられました。国別の参加者として出会ったのは、開催地であるイギリスからの参加者に加え、ドイツとアメリカからの参加者が印象的でした。当社が観察した限りでは、参加者の職種としては、インハウスSEO担当者、小規模エージェンシーの代表や担当者、フリーランスのSEOコンサルタントが見受けられました。特に、データドリブンなアプローチを重視する専門家が多く、分析結果に基づいた実践的な議論が交わされている印象を受けました。コンテンツ戦略のセッションでは、E-E-A-Tの重要性について議論が活発に行われていたように見え、専門性、経験、権威性、信頼性を高めるための具体的な手法に関心が集まっていました。特に、AIが台頭する中で人間の専門性をどのように示すかというテーマが多く取り上げられていました。また、リンクビルディング関連のセッションも注目されており、欧州のSEO市場においてリンク構築が依然として重要視されているという印象を受けました。日本のSEO市場が記事コンテンツの生産に焦点を当てる傾向があるのに対し、欧州では質の高いバックリンク獲得の戦略が重視されているという地域差が感じられました。カンファレンスにおける業界のトレンドBrightonSEO Spring 2025で最も顕著だったのは、AIが単なる未来のテーマではなく、現在進行形の現場課題として扱われていたことです。生成AIの台頭によって、従来のSEOの定義やアプローチが問い直される中、セッションでは「今、実際に何が起きているか」「これからどう変化するか」「それにどう備えるか」という3つの観点から議論が構成されていました。今回のカンファレンス全体を通して感じられた主要なトレンドは以下の通りです。1. SEOは“Search Engine”最適化から“Search Experience”最適化へもはやGoogle検索だけが検索行動の中心ではありません。ChatGPT、Perplexity、YouTube、Reddit、TikTokなど、検索エンジン外の「情報発見の場」が意思決定に強い影響を持つようになりました。この変化は「SEO(Search Engine Optimization)」という言葉の意味自体を問い直す動きを生み、実際に「Search Optimizationに名称を変えるべきか?」という議論さえ登場しました。SEOは今や、単にエンジンに対する最適化ではなく、ユーザーの“情報発見の体験”全体における最適化(SXO)へと進化しています。2. EEATは単なるGoogle指標ではなく、“AI回答の引用ロジック”になったEEAT(Experience, Expertise, Authoritativeness, Trust)は従来、Google検索におけるコンテンツ評価指標とされてきましたが、現在は生成AIによる回答のソース選定基準としても機能しています。ChatGPTやGoogleのSGEなどのAI検索では、明示的なランキングではなく、どのドメインを引用するかが重要であり、その判断は信頼性と文脈、つまり“EEAT的な指標”に基づいて行われます。この文脈においては、「ブランド指名検索」や「レビューサイトでの評価」なども、EEATを支える実質的な評価指標として再注目されています。3. GEO(Generative Engine Optimization)の概念が正式に定着生成AIの普及に伴い、SEOはキーワード順位だけでなく、「AIによる出力に選ばれるか」という新しい軸=GEO(Generative Engine Optimization)を持つようになりました。特にChatGPTやPerplexityのようなAIエンジンは、従来の検索順位と無関係に情報を再編成して提示します。したがって、AIに引用される文脈・構造・出現位置・信頼性といった、新たな最適化戦略が求められています。4. 「ゼロクリック」時代の到来とブランド力の重要性SERPの進化により、ユーザーは検索結果からリンクをクリックせずに情報を完結させることが増えており、「ゼロクリック検索」の割合は年々上昇しています。このような状況下で注目されたのが、「ブランド名で検索されること」の価値。セッションでは、クリックを得るには“ランクより認知”が重要であり、「記憶に残るブランド」を構築する“Digital Authority PR”の戦略が多数紹介されました。“EEAT”を高めるためのオフライン活動やPR連携が、今後のSEOでも無視できない要素であることが明確になりました。5. 検索行動は「反応型」から「予測・提案型」へ移行AIと機械学習の進化により、検索行動そのものが変化しています。ユーザーが入力する前に「知りたいことを察知して提示する」予測型の検索体験が当たり前になりつつあり、検索前の行動ログや文脈が重要な入力情報となっています。これにより、コンテンツの役割も「答えを提供する」から「選ばれる候補に入る」方向へ変化しており、発見性(Discoverability)を高めるUXや構造の設計が不可欠となっています。6. マルチチャネル戦略と“検索以外”の接点設計が主戦場にセッションの多くでは、検索に至る前段階=“影響の瞬間(moment of influence)”をどう設計するかが焦点となっていました。TikTok、YouTube、Reddit、Podcastなどのプレゼンスが、指名検索やCTR、EEATスコアに直結することが実例ベースで紹介されており、「SEO = SERP対策だけではない」ことが明確になっています。SNS・PR・インフルエンサー連携を含む統合戦略が、これからのSEOの“入り口”となることは確実です。7. “リンクビルディング”から“リンク・エコロジー”へ被リンクは依然として有効だが、「数」よりも「質」へのシフトが進んでいます。特に、セッションでは「ユーザーにとって意味のあるリンク」であることがGoogleの評価軸であると明言され、ユーザー中心のリンク戦略(=User-first Linking)や、自然リンクを生むハイブリッドコンテンツ(インフォグラフィック+体験談+AI要素)が注目されていました。8. SEOは「サステナビリティ」と「インフラ整備」の時代へ「読みもしないコンテンツを量産することが環境負荷を生む」という新たな視点が提示されました。講演では、高速・軽量なWeb設計やグリーンホスティングの活用が「ユーザーにも地球にも良いSEO」として紹介され、「パフォーマンス改善=環境配慮=ブランド価値向上」という三位一体の考え方が提案されています。これは単なる技術論ではなく、「ビジネスとしての持続可能性」をSEO戦略にどう組み込むかという新たな問いでもあります。日本企業の参加のおすすめ度、チャンスbrightonSEOは、日本企業にとって非常に価値のあるカンファレンスであると言えます。その理由としては以下の点が挙げられます1.グローバルSEOトレンドの最前線を学べるbrightonSEOは、世界中からSEOの専門家が集まり、最新のトレンドや戦略が議論される場です。特に今回のように、AIを中心とした最新のSEOアプローチを学ぶことができ、日本市場だけでは得られない視点や知見を獲得できます。2.欧米市場進出の足がかりに欧米に展開を考えている、あるいは既に展開している日本企業にとって、欧州のSEO市場の特性を理解することは極めて重要です。特に、日本とは異なるリンクビルディング重視の傾向や、E-E-A-Tの示し方など、市場ごとの違いを理解することで、より効果的なデジタルマーケティング戦略を構築できます。3.国際的なネットワーキングの機会カンファレンスやパーティなどを通じて、国際的なSEO専門家や企業とのネットワークを構築できます。これらの関係は、将来的なビジネス展開や情報交換において貴重な財産となります。4.自社の技術やサービスをアピールする場日本の技術力や独自のアプローチは、欧米市場でも評価される可能性が高いです。brightonSEOへの出展を通じて、自社の強みをグローバル市場にアピールする絶好の機会となります。日本のSEO市場は欧米とは異なる特性を持ちますが、グローバル化が進む現在、国際的な視点を取り入れることで、ビジネスの可能性を大きく広げることができるでしょう。brightonSEOへの参加は、そのための貴重な一歩となります。brightonSEO Spring 2025まとめbrightonSEO Spring 2025は、SEOの“技術論”から“戦略論”、さらに“存在意義の再定義”へと大きくシフトしていることを象徴するイベントでした。生成AIの浸透により、従来の順位争いやリンク獲得といった施策は、検索体験のごく一部に過ぎないものとなりつつあります。特に印象的だったのは、SEOが「検索エンジン対策」から「検索される前の接点設計」「AIに引用されるための構造設計」へと広がっている点です。EEATはAIにも通用する概念として再定義され、GEO(Generative Engine Optimization)は“AIに見つけられること”を目指す新たな最適化戦略となっています。また、CTRやトラフィックに直結するのは、キーワードや順位ではなく、「ブランドがどれだけ先に知られているか」であるという前提が共有されていました。もはや検索の起点はGoogleではなく、YouTube、Reddit、Slack、SNS、あるいはChatGPTかもしれません。SEOは今や、UX、PR、データ分析、構造化、環境配慮、AI理解などを横断する“包括的なビジネス設計”であり、「見つけられること」を超えて「記憶に残る存在であること」こそが最重要になっています。SEOの未来とは、テクノロジーの話であると同時に、「誰にどう覚えられるか」の話だと感じました。調査担当者打田彩夏 / メディアリーチ 英国在住 SEOコンサルタント